対談記事(13): BIPROGYグループのAI革命:生成AIサービスシナリオとビジネス展望(1/2)


BIPROGY株式会社(三浦様、脇森様、阿部様)、ユニアデックス株式会社(藤田)、工学博士(前)、弁理士(町田)弁護士(松岡)が対談<前半>

対談の概要:BIPROGYグループが導入している生成AIに関する取り組みについて、お客様へ提供しているサービスの内容や導入時に注意すべき点、提供過程での課題や今後の展望についてお伺いしました。

1.BIPROGYの社名の由来及びAIに関する取り組み

2.生成AIに対する極めて大きな期待と現実的な実務(「生成AIの幻滅期」?)

3.具体的なサービスシナリオ

1.BIPROGYの社名の由来及びAIに関する取り組み

松岡:本日はよろしくお願い致します。この対談の読者には、御社の名前は聞いたことはあるが、由来までは把握していないという方もいるかもしれません。そこで、まず、「BIPROGY」というお名前の由来からお伺いしていきたいと思います。
三浦:分かりました。「BIPROGY」というのは、ブルー、インディゴ、パープル、レッド、オレンジ、グリーン、イエローの頭文字です。先見性のある提案をしていくという趣旨なのですよね。つまり、プリズム、光が分散するのは七色だよねということが語源です 。つまり、元々は、ユニシスという名前でしたが、ユニシスという名前を継続する場合、国外における仕事のやりやすさなどの観点から課題がございました。そこで、長い間検討を重ねまして、「BIPROGY」という名称に変更いたしました。
やむを得ないのですが、名称を変更した結果、ぐっと知名度が下がってしまいました。社外の研究会や勉強会に参加した際に、社名を知られておらず、少し苦労することがあります。新しい社名である「BIPROGY」の知名度の向上につきましては、十分に取り組まなければならないと考えております。
松岡:分かりやすくご説明いただきありがとうございました。それでは、御社の業務内容について教えてください。
三浦:分かりました。現在、連結ベースの売上高は約3400億円、従業員は約8000人であり、大株主は大日本印刷です。当社は、メインフレームベンダーであったこともありまして、お客様につきましては、金融機関、公共企業、流通業、製造業など幅広い業種のお客様がいらっしゃいます。対応する形で、当社の部門は、金融部門、社会公共部門、製造部門、流通部門という区分けをしており、システムエンジニアリング部門と営業部門がそれぞれフロントに立つ形となっています。
本日対談に参加している脇森と阿部は、それらの部門を横断的にサポートする形で仕事をしています。脇森は、プラットフォームサービス本部というところに所属しています。私は、テックマーケアンドデザイン企画部というところで、コーポレートマーケティングよりは少しテクノロジーに寄ったマーケティングを行っています。
当社は、SI(システムインテグレーション)を請け負うという割合が高いです。
ユニアデックスとの業務区分につきましては、業務系のシステム開発はBIPROGYが行い、ネットワーク・インフラにつきましてはユニアデックスが行うというものです。
AIにつきましては、例えば、小売店舗向けに発注業務を自動化するというサービスを提供しております。事業に組み込んだ形でAIを組み込んでいっております。データサイエンスのサービスをサービス型でお受けするような分析のサービスですとか、自然言語処理、ChatGPTに関する分野も近いんですけども、
今年度はChatGPTの領域を始めております。企業が利用する場合は、「インハウス」といいますか、安全な形で利用しなければなりません。事業企画の方々が、AIを使わなければならないという機運が盛り上がっているところですので、当社としてもご支援を差し上げております。
松岡:ご説明いただきありがとうございます。御社のAIに関する業務をされる方は、「プラットフォームサービス本部」に在籍されているということでしょうか。
脇森:そうですね。「プラットフォームサービス本部」には約30名が在籍しています。また、画像処理に関しては、IoTの部署に在籍しており、プロダクトサービス第二本部というIoTの部署に10名ほどのエンジニアが在籍しております。合計すると約40名のスタッフが在籍しており、お客様向けにサービスを提供しています。
その他にも総合技術研究所という組織があり、その組織に数名のAI研究者が所属しています。
松岡:2022年11月にChatGPTが公表され、2023年には、生成AIがブームというか盛り上がりを見せました。これによって、御社のAIに関するスタッフは人数が増えたのでしょうか?
脇森:人数が急に増えることはないのですが、非常に盛況でございます。この1年間は、月に20件ぐらいの社内外の問い合わせをいただいており、毎日その対応に追われている状況です。
松岡:人数が増えないのに業務量が増えるのは大変ですね。
脇森:ある程度の技術経験がないと遂行できない領域でもありますし、IT業界全体が人手不足というところもあり、人数をすぐに増やすというのは難しいのです。
前:引き合いが多いのは、ChatGPTに関係するものでしょうか、それともChatGPTに関係しない領域でも引き合いが増えましたか?
脇森:やっぱり生成AIではChatGPT関係が多いですね。DALL-E3などを使った画像生成はあまり多くないですね。阿部さん、いかがですか?
阿部:はい、画像生成はそれほど多くなく、ChatGPT関係が多いです。また、生成AI以外の従来のAIは増減なく、例年通りの量の業務量がございます。
前:例えば、橋梁に関するサービスは画像周りなのかなと思ったのですが。
阿部:橋梁に関するサービスは、5年ほど前からのものでして、それが成果として出てきたというものです。

2.生成AIに対する極めて大きな期待と現実的な実務(「生成AIの幻滅期」?)

松岡:この1年は非常にお忙しかったということだと思いますが、今後どれくらいの期間、ニーズの高まりが継続すると予測されていますか。
脇森:予測はなかなか難しいですが、ある調査会社のレポートでは、2030年までに今の生成AIの市場が10~12倍になると予測されています。しばらくの間、生成AIがブームを生み出していくのかなと思っています。それに応じて、我々もしっかりとニーズにこたえていくために、技術を高めていかないといけないと考えています。
ただ、メタバースみたいに急に冷めてしまうこともありうるのかもしれないなとも思っています。
前:私は、メタバースよりはChatGPTはすぐに利用可能な技術ではないかと思います。生成AIが完成形の成果物を生み出すことはなかなか難しいと思いますが、これまで部下に作ってもらっていたような下書きであれば、生成AIをうまく利用すれば作成可能ではないかと考えています。現在、生成AIを利用できるのかどうか、半信半疑の人も、近い将来、生成AIを利用することが普通になっていくのではないかなと予想していますが、いかがでしょうか。
脇森:そうですね。今までのAIは、学習させるデータを用意し、コードを書き、パラメータをチューニングし、性能評価して、と専門家による試行錯誤が必要でした。また、出力も記号的で解釈にコツや知識が要りました。作り手や使い手を選んでいたわけです。
これに対し、生成AIは人が使う言語でAIに指示・例示できるので、簡単なAIであれば一般的なIT知識で作ることができます。世界的に枯渇していると言われている、AIの作り手が増えていくと予想します。また、使い手にとっても、生成AIでは出力が言葉や画像といった、私たちが普段コミュニケーションに使っている情報に代わるので、扱いやすいものになります。これまでに比べ、人間に寄り添ってくれたのかなと思っています。マルチモーダル、言語+画像+音のようなところも出てきたので、将来的には、人とAIが五感を使ってコミュニケーションを取れるようになるのかなと想像しています。
技術についても、今のところはどんどん学習データを増やしたり、時間をかけたり、コンピュータリソースを用意したりといったところで、性能が上がっていくこと、新しい能力が創発されることが発見されているのが、好材料なのかなと思っています。
作り手も使い手も敷居が下がったということに加え、今は上手くいかないことでも将来はできるようになることが見えており、次の10年間で生成AIの活躍の場は広がっていくというのが私の予想です。
前:一般的な会話であればそのまま使えますけど、仕事ということになると、社内のデータベースであったり、カスタマーサポートであったり、Q&Aのようなデータベースとつないで、それをベースとして回答させるということが考えられると思います。今でもAPIを通して、つなぐことはできると思いますが、このつないだりするところは、御社のような会社に頼らないといけないと思っていますが、いかがでしょうか。
脇森:おっしゃっているのは「RAG(Retrieval Augmented Generation)」と呼ばれる技術だと思いますが、その辺が楽にできるような仕組みは弊社でも作っていますし、マイクロソフトやグーグルのようなテックベンダーからもそのような機能は提供され始めています。
我々は、この「RAG」の検証について、本当にかなりの数のお客様と同時並行的に行っております。ただ、阿部がとても苦労をしています。一般的に思われているよりも、難しい作業なのですよね。みんな、綺麗なショーケースを見るので、なんで早く作って世の中に出さないのと言いますが。もしかしたら、一度幻滅期が来るかもしれませんね。
阿部:幻滅期は来るでしょうね。
松岡:幻滅期が来るかもしないという予測の根拠や苦労されている点について教えてください。
阿部:「RAG」は回答に必要な情報を検索して取得し、その情報も入力として回答を生成する技術です。大きく検索と回答生成の2つに分かれますが、前者は従来の全文検索の領域であり、従来あった課題にぶつかってしまうと乗り越えることが難しいケースも多いです。一方、検索精度の改善に対してLLMを適用するアプローチも多く提唱されており、試行錯誤している状況です。
また、言語生成AIは非常にユーザーフレンドリーであるがゆえに、なんでもできるいわゆる強いAIの印象を与え、期待感が高まりすぎていると思います。過去のAIと比べると、強いAIにぐっと近づいたことは間違いないですが、うまく活用するためには解決可能なタスクを見定めていく必要がございます。ユースケースの中で、解決可能なタスクに落とし込むところと精度が100%になりきらないところのギャップが色々なところで露見し、ユーザーの方々が触れていく中で、理解されていって、思ったほどなんでもできるわけではないんだなという認識が広まっていくのかなと考えています。
前:強いAIとか弱いAIと言われているものをイメージするとそうかなと思いますが、10年ほど前のディープラーニングのとき、みんなあまりよく分かっていなかったときに、一般のマスメディアは、本当に何でもできるかのように紹介していました。あのときは、今の画像認識や音声認識がグッと進んだのですが、それ以外はそうでもないよねという感じでした。今回ChatGPTが出てきて、インターフェースがコードを書けない人でも使えるものになりました。
ただ、やらせたいことにフォーカスしたときに期待通りになるかどうかは、色々な課題があるのだろうなと思っています。できるところから使っていくという形で、御社のような会社ができたことの事例を重ねていっていただくと、そこからやっていこうということになるのかなと思っています。
阿部:おっしゃるとおり、ITベンダーやAIベンダーが現実的にはどのように利用可能かという具体的な事例を示していくことで、幻滅期を乗り越えることができるのかなと思っています。
関連する議題として、プロンプトエンジニアリングの観点から申し上げます。プロンプトエンジニアリングにも色々な粒度があると考えており、一度のやり取りで上手く回答を返すための作法から、複数のやり取りをLLM以外の技術も上手く組み合わせて実現するものまでございます。簡単な事例を申し上げますと、「この文章を要約して」といったときに、その文章がとても長い場合は、一度にLLMに投げられないため、分割して、順番に要約したものをもう一度要約するような処理が必要となります。その他でもアルゴリズム的な要素を入れながら、うまく動かすプロンプトエンジニアリングが提唱されてきているのかなと思っています。その点では、ITベンダーなどのシステム会社が必要とされる領域は残ると思っております。
前:そうですね。ご指摘の通りと思います。
先ほどの社内の、例えば、コールセンターのような部署のQ&Aのデータベースとつなごうとしたときに、従来はChatGPTとつなぐことを当然想定しないで、従来のシステムのインターフェースで検索できるようなことしか考えていなかったと思います。そういうものとChatGPTをつなごうとしたときに、APIのインターフェースを作成してあげないといけないと思っていますが、そういうところの苦労されていることはありますか。
阿部:インテグレーション面のところでいうと、正直、その課題にぶつかるフェーズまではまだ上がってきているケースは少ないと感じております。データベースの情報をCSVか何かの形式により吐き出して、それをChatGPTに入れてあげて、まず、機能するかどうかを確認するというフェーズが多いです。その機能性の確認がとれて本番システムとして構築する際に発生する課題と認識しており、まだ、手前の段階が多いということですね。
脇森:システム化のところは課題が多いですね。生成AIの案件の複数の案件を同時並行で行っているのですが、一つの案件ごとに一からパーツを組み合わせることをすると、保守すべき環境がどんどん増えてしまいます。10社、20社、30社、40社、100社と、、、全部の状況を把握して連携するのは難しいですね。ただ、その中で、共通項のようなものがあると思いますので、共通項を把握してプラットフォームのようなものをしっかりと作成しないと、スキル的にもリソース的にも保守できないのではないかと考えております。ミドルレイヤーのところを、プラットフォームとして作りこんでいきたいという議論はしており、その方向で商品開発は動いています。
前:なるほど。連携する相手は、無限にあるというか、会社ごとに色々なものがあるので、それごとに一つずつ作っていたら、全部の保守をしなければなりませんので、大変なことになりますね。,
脇森:プラットフォームに関しては、生成AI以前から、我々のようなシステムインテグレーションの会社が、色々作成してきました。そのプラットフォーム作成のノウハウを活かせると考えています。
前:例えば、データベースに入っているものであれば、SQLのインターフェースみたいなもの、汎用的に使えるものをかましたり、HTMLというか、ウェブだったらどうだとか、ファイルベースにためているものだったらどうかとか、データの保有方法ごとに共通インターフェースのようなものを作成されるというイメージでしょうか。
脇森:そうですね。部品化があったり、そういうイメージに近いと思います。

3.具体的なサービスシナリオ

それでは、次に、生成AIに関する具体的なサービスの事例についてお伺いしていきたいと思います。

脇森:分かりました。まず、当社が生成AIの活用を考えている全体像を私が説明して、その後、阿部さんが金融の事例を説明します。

当社は、5つのシナリオを考えています。

シナリオ①:社内情報のコンシェルジュ

生成AIを活用して、社内情報のコンシェルジュを作ろうというものです。働いている方は、社内の色々な情報を知りたいと思います。例えば、社内の規則、会社の館内情報、会社のアセット、社内の専門家を知りたい場合、それらの情報を全て把握した上で、回答してくれるコンシェルジュがいれば助かるのではないかと思います。こういうところに、生成AIは非常に相性がよいのではないかと思い、適用を進めています。これにつきましては、お客様にも提供しようとしていますし、当社の社内でもこのようなシステムを作成しようとしています。

当社内のシステムとしては、社内アセット、これまでの事例や当社が保有しているプロダクトのようなところから始めてみようとしています。

松岡:従来、会社の総務部に聞いたり、詳しい同僚を見つける必要がありましたが、AIに肩代わりさせて、そのような労力を不要にさせるということですよね?

脇森:そうですね。当社の場合、どの部署の誰に聞くべきかよく分からない事項もたくさんあります。例えば、お客様から「〇〇することができるシステムを提案してほしい」と聞かれた場合、誰が何の専門であるのか正確には分からないので、誰に相談すべきかはすぐには分かりません。こうした問題を解決したいと考えています。

松岡:たしかに、それを回答してくれるAIがあれば、めちゃくちゃ便利ですね。

脇森:あらゆる「知りたい」に回答してほしいというニーズは、どの会社にもあると思います。

前:私のお客様の会社からもこのサービスに関してはご相談がありました。非常に多くの会社がニーズを有していると思います。

脇森:藤田さんが情報システムの運用・保守領域で似たようなことをされています。インシデント対応の場合、似たような問い合わせであるとか、類似のFAQが蓄積していても、探すのは大変ですよね。ですので、過去の事例があるのかどうか、解決の方法があるのかどうか、という問い合わせに回答する仕組みを藤田さんが企画しています。

藤田:はい。私の所属するユニアデックスでは、サポート部門や技術主管部門に対する問い合わせへの対応に生成AIの適用可能性を検証しています。トラブルシューティングや技術的な問い合わせに関するインシデントに対処する際、過去のデータやベンダーから提供されたパッチなど、複数のシステムに分散した様々な情報を参照して対応する必要があります。これらの情報を一元的に検索し、回答や解決策を生成することによって、問題解決をより素早く行う取り組みです。この技術は、お客様へのレポート作成などにも応用が可能と考えています。

松岡:内部情報をAIに読ませる場合、AIを通じた情報漏えいのリスクはありませんか。

脇森:セキュリティにつきましては、きちんと対応しています。我々が使用しているのは、「Azure OpenAI Service」というマイクロソフトが提供するサービスになります。それは、エンタープライズ向けとなっており、規約においてもAIにあげた情報は、学習に利用されないようにとか、ログは残さないという点を確保できる仕組みになっています。また、Azureで作られていますので、他のAzureのサービスとの相性が良いので、うまくセキュリティネットワークを設定できれば、そのAzureから情報を出さずにアーキテクチャーを作成することができるという良さもあります。システムインテグレーションの会社としての強みがある領域の一つですね。

松岡:昨年、ChatGPTが話題になった際に、セキュリティの課題が強調されました。貴社の場合、そのセキュリティの課題については、ほぼ解決したというご認識でしょうか。

脇森:セキュリティに関しては、一つ一つクリアしていかなければなりません。保守をする側とセキュリティを侵害する側のイタチごっこの側面もあります。AIの学習やAIにデータを渡すための経路のセキュリティ確保に関しては、現時点では問題ないと考えています。他方、プロンプトインジェクションや色々な攻撃の仕方があるのですが、それについてはまだ誰も完全には解決できていません。ただ、それにつきましても本当にリスクがあり警戒しないといけない場面もあるし、それほど考慮しなくともよい場面もあるのかなと思っており、そのあたりは、見極めが必要と考えています。

松岡:丁寧にご説明いただきありがとうございます。

活用シナリオ②:ドキュメント作成のお手伝い

脇森:活用例の2つ目として、ドキュメントを作成する際のお手伝いをすることもできると考えています。例えば、「特定の会社の情報を知りたい」というときに、その会社の非公開情報、公開情報の多種多様な情報を入力するのみで、一つの綺麗な報告書を作成することができるのではないかと考えています。実際に、当社のお客様の会社(A)が、そのお客様(B)にコンタクトをする際に、そのBの企業情報を知りたいというケースがございました。従来、Aの担当者の方が、Bに関する調査書を作成していたと思いますが、そのAの担当者の業務について、生成AIが代替してくれるものと思います。

前:定型フォーマットの書類を作成するというニーズはありますよね。前回の対談[1]の際にご紹介のあった特許の明細書を作成するというのは、この活用シナリオ②の応用の一つかなと思います。

松岡:活用シナリオ②は、有価証券報告書などの資料を読ませて、自社に必要なデータのみを要約してもらえるという感じでしょうか。それとも、有価証券報告書を作成するというイメージでしょうか。

脇森:有価証券報告書を作成するというよりは、むしろ有価証券報告書などのインターネット上にある情報をキュレーション[2]して、自分の見たい視点で情報整理するというものです。

松岡:ご説明いただきありがとうございます。こういうAIがあれば、とても助かりますね。

脇森:企業ごとにまとめたい視点というのは違うと思います。生成AIを活用してオーダーメードできるので、そのような企業の個別のニーズに対応できるのではないかと思います。

活用シナリオ③:データからのインサイト抽出

脇森:次の生成AIの活用例は、データからのインサイト抽出です。集計表やグラフを表示するビジネスインテリジェンスツールがあると思いますが、集計表やグラフの意味を理解するのは、大変ですよね。そこで、AIを利用して、「このポイントで急増している」とか、「ここにダウントレンドがある」などを読み取って教えてあげるものです。このAIを利用すれば、データ分析のリテラシーがない人であっても、ある程度BI[3]を理解することができるようになります。

また、グラフの詳細(例えば、グラフがニュース記事のコメント数を示している場合のニュース記事のコメントの内容)について、1つずつ読み込んでいくのは大変です。1つずつ読み込まなくとも、例えば、40件のコメントは、大体、どのようなことを言っているのかをAIがまとめてくれます。または、本当は4000文字のところを200文字にAIが要約してくれます。このようなところにも生成AIは使えるのではないかと考えています。

前:グラフという画像データを読めるようになると、この活用シナリオは、便利になるように思いますね。

脇森:そうですね。GPT-4Vで、画像データはある程度読めると言われていますが、私の感覚的にはまだまだですね。

前:そうですね。

松岡:③については、どのような会社からのご相談がありますか?

脇森:当社は、BIツールを作っておりますし、また、サードベンダーの商標を担いでいるような部門もあります。③については、そこのお客様からのご相談もありますね。

活用シナリオ④:従業員教育における活用

脇森:次の活用例は、従業員教育です。企業の研修で、最後に問題を解かせてみるというのがあると思います。生成AIは、問題文の作成に使えます。例えば、ある文章を示して、その文章の中から四択問題を作らせることができます。講師が毎回このような問題を作成するのは、非常に頭を悩ませますし、多くの時間も使いますので、こういう点をAIが支援してくれると楽になると思います。

問題の作成以外にも模範解答の作成や照合の際にも利用可能と思います。文章で回答させる問題を出した場合、模範解答が用意されていて、講師が受講者の答案の一つ一つを採点していくと思います。その採点は、非常に難しいです。その採点の作業について、AIが個別の回答と模範解答や他の受講者の回答との相違点を示してサポートをするという取組みを研究開発レベル、検証レベルで行っています。

その他、生成AIにお客様の役を担当させて、接客ロールプレイをすることができるのではないかと考えています。銀行の窓口の方や小売店の店員さん、特に新入社員の方が生成AIとロールプレイをすることによって、スキルを上げていくことができると思っています。これについては、マルチモーダルが関係するかもしれませんね。

前:そうですね。新入社員の方が音声で言って、生成AIも音声で返してくれたらいいですね。

脇森:はい、音声認識・合成がちゃんとできる想定です。

今回は、BIPROGY株式会社の会社紹介から、生成AIのビジネス活用シナリオ5種の内4点について紹介頂きました。次回は残り1点の紹介に加えて、サービス提供時の課題などについてより具体的な内容を紹介頂きます。


[1] http://aib.or.jp/2024/02/02/chatgpt-12/ 

[2] インターネット上の情報を特定の視点を持って収集、選別、編集することにより、新しい価値を持たせて、それを共有すること

[3] Business Intelligenceの略で、事業場の意思決定に関わる情報を分析して得られる知見などを活用する仕組みや手法

2024年2月


【過去の対談記事】


AIB協会からのニュースレターのお申込:
AIB協会から対談記事の公開などのお知らせをしています。ご希望の方はこちらから配信先をご登録ください。

ご質問等は、以下にご連絡ください。
人工知能ビジネス創出協会 事務局

対談者ご紹介

BIPROGY株式会社 市場開発本部 データ&AI事業推進部 ビジネス推進室
三浦 和夫 (みうら かずお)様

1992年 日本ユニシス(株)入社。製造業の顧客システム開発に従事後、ソフトウェアに関する企画業務を担当。
現在は、BIPROGY(株)市場開発本部にてAI領域のビジネス戦略立案を担当。


BIPROGY株式会社 市場開発本部 データ&AIサービス部 部長
脇森 浩志(わきもりひろし)様

2003年より自然言語処理・統計解析・コンピュータビジョン・数理最適化などのデータサイエンス領域におけるプロダクト開発や技術研究・適用に従事。「クラウドではじめる機械学習(リックテレコム) 初版/改訂版」などの書籍を執筆、諸学会・ビジネスイベントに登壇。


BIPROGY株式会社 市場開発本部 データ&AIサービス部 AI/IoT技術室
阿部(あべ たける)様

大学院で情報工学を研究。2016年に新卒でBIPROGYに入社。画像や3Dデータ解析を中心に、技術横断なAIプロジェクト推進に広く携わる。
近年では生成AIを対象とした提案や企画から技術検証、適用まで従事する。


 

ユニアデックス株式会社 テクノロジーサービス本部 技術戦略部 戦略デザイン室
藤田 勝貫 (ふじた まさつぐ)

システムエンジニアとしてキャリアをスタート。ITベンチャーを経て、2005年にBIPROGYグループのユニアデックス株式会社に入社。2014年よりAIやデータ活用をテーマとした社内実証や顧客課題解決の業務に従事。2018年より本協会運営委員として活動。


ジャパンマネジメントシステムズ株式会社 代表取締役社長
AIB協会理事 前一樹(まえ かずき)

東京大学大学院工学系研究科博士課程終了・博士(工学)取得。ベルギー・ルーベンカトリック大学研究員、北陸先端科学技術大学院大学助手、ITベンチャー企業取締役、CTOなどを経て、現職。医療系研究会事務局長、元上場企業監査役なども務める。情報処理安全確保支援士(登録番号第002063号)、ITストラテジスト。


弁理士法人磯野国際特許商標事務所 代表社員 弁理士
AIB協会理事 町田 能章(まちだ よしゆき)

早稲田大学大学院理工学研究科建設工学専攻修了。総合建設会社勤務を経て、磯野国際特許商標事務所に入所。2014年4月事務所法人化に伴い代表社員(所長)に就任。AIB協会内外においてAI分野の知財に関するセミナー講師も務める。特定侵害訴訟代理業務付記登録。


  

渥美坂井法律事務所・外国法共同事業 パートナー 弁護士 
AIB協会理事 松岡史朗(まつおか ふみあき)

京都大学法学部卒業、一般社団法人日本DPO協会顧問、ステート・ストリート信託銀行株式会社社外取締役(監査等委員)、「特定利用者情報の適正な取扱いに影響を及ぼすおそれのある外国の制度に関する調査報告書」(総務省)<共著>
https://www.aplawjapan.com/professionals/fumiaki-matsuoka


〒150-0031
東京都渋谷区桜丘町18-6 日本会館4階  株式会社 ISP Networks 内
一般社団法人 人工知能ビジネス創出協会