対談記事(4):Midjourneyなどの画像生成AIによる著作権の問題

工学博士(前)、弁理士(町田)、弁護士(松岡・星野)が対談

対談記事の概要:
前回は画像生成AIについて、その仕組みやChatGPTとの併用について対談いたしました。今回は、生成した画像の著作権が認められる場合や著作権侵害の場合の対応について分かりやすく説明しました。

(1)画像生成AIが生成した画像と著作権について

ア 具体例と回答

松岡:画像生成AIが生成した画像と著作権の問題について話していきたいと思います。具体例を用意しました。


具体例:ウェブデザイン会社が、画像生成AIを利用して、依頼者(X社)のために猫のイラスト画像を生成した。X社は、その猫のイラスト画像が自社のHPのイメージに合うと考えて、HPに掲載した。


具体例の中に出てくる猫のイラスト画像の著作権は誰に生じますか。

町田:結論としては、猫のイラストが著作物という前提であれば、実際に画像生成AIを利用して猫のイラストを生成したデザイナーさん、または職務著作が成立すればウェブデザイン会社に著作権が帰属することとなるので、まずはこの二者が候補になります。

松岡:星野先生、補足していただけますか?

星野:具体例では、X社はウェブデザイン会社にデザインを委託しているようです。このような場合、X社とウェブデザイン会社との契約によっては、X社に著作権が帰属することもあると思います。また、画像生成AIによっては、利用規約において、生成した画像の著作権は、画像生成AIを提供する会社に帰属するとしている場合もあるようです。ウェブデザイン会社による画像生成AIの利用について、このような内容の利用規約が適用されるのであれば、生成した画像の著作権は画像生成AIを提供する会社に帰属すると思います。

イ 著作権の基本からの説明と「なめ猫」[1]の具体例を用いて説明

前:ありがとうございます。もう少し基本的なところから説明をお願いします。

町田:政府の知的財産戦略本部が平成29年3月に公開した資料を使って説明しましょう[2]
著作物は「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」(著作権法2条1項1号)と定義されており、「思想又は感情を創作的に表現したもの」でなくてはなりません。以前は、AI自体に著作権が帰属するか、という議論が活発にされていましたが、AIは機械であり、「思想又は感情」を有しないため、AI自体に著作権は帰属せず、第一次的には、AIを利用する利用者に著作権が帰属という結論で落ち着いているようです。
また、この政府資料によれば、常に利用者に著作権が帰属するわけではなく、帰属するためには、利用者において創作意図と創作的寄与が必要とされています。具体的には、利用者がAIに対し、簡単な指示をしただけの場合、利用者において、「思想又は感情を創作的に表現」していないから、著作物ではないとされています。
ただ、人間がより詳細に指示を出した場合、利用者において「思想又は感情を創作的に表現」しているといえるので、著作物に該当するといえます。どの程度の創作意図及び創作的関与すれば、「創作的に表現した」といえるかどうかの線引きは、評価が難しい場合はあるかと思います。

前:ありがとうございます。「未来の車」とMidjourneyに入力しただけで出力された画像は著作物というのは難しいが、いろいろな言葉を重ねてMidjourneyに入力した場合、そこには創意工夫があるので、生成画像は著作物と認められやすいということでしょうか。

町田:そうだと思います。具体例が猫ですので、「なめ猫」で考えてみましょう。私と同世代の方には説明不要だと思いますが、「なめ猫」とは、学ランを着た不良学生的な可愛い猫のキャラクターのことです。
画像生成AIに「黒い学生服を着た、暴走族風の三毛猫」と入力したり、「学生服はブレザーではなく、学ランである」といろいろ入力していくと、「なめ猫」に近い画像が出てくるかもしれません。仮に今まで「なめ猫」がいなかったとすれば、これは、斬新な発想です。このように、画像のイメージやコンセプトを詳細に入力していくと、創作性が高まり、創作的寄与があると認められやすい、つまり、著作物として認められる可能性もあるのではないかと思います。

前:ありがとうございます。著作物になるか否かの境目が分かりやすかったです。他方、先ほどの「なめ猫」の事例の場合、実際の「なめ猫」の著作権を侵害しているように思いますが、いかがでしょうか。

町田:はい。先ほどの著作物になるか否かの境目に関しては、あくまで「なめ猫」がこの世に存在しないと仮定した場合の事例です。
画像生成AIで生成した「なめ猫」風の画像が本物の「なめ猫」の著作権を侵害しているかどうかというのはご指摘の通り別の問題ですね。この著作権侵害の問題について、星野先生いかがでしょうか?

星野:一般的な著作権侵害の要件として、①「依拠性」と②「類似性」があります。「依拠性」は、分かりやすく言うと、元々の著作物を参照したかどうか、ということです。
仮に「なめ猫」を知っている利用者が「なめ猫」の特徴をイメージしながら、画像生成AIに入力していって、「なめ猫」そっくりの画像を出力・利用したとすると、「依拠性」「類似性」という要件を充足するので、著作権侵害に該当すると思います。
他方で、「なめ猫」を本当に知らない人が、画像生成AIを操作して、たまたま学ランを着た猫の画像を生成した場合、どうなるかは問題です。知らなかったので、「依拠性」なしとしてしまって本当に良いのだろうかと思います。
例えば、Midjourneyのデータセットの中に「なめ猫」があり、Midjourneyがそのデータを参照した場合にも「依拠性」なしとしてよいのかは議論があるところだと思います。
ただし、「なめ猫」は私の世代でも知っているキャラクターなので、「なめ猫」を知らなかったという主張は簡単には認められないと思います。「なめ猫」を知らなかったから「依拠性」がないという認定がされるか、仮に裁判になった場合には、利用者側の立証活動のポイントとなると思います。

前:画像生成AIでは、参考にする画像をアップロードできます。「なめ猫」の画像をアップロードした場合、「依拠性」はあるということでしょうか。

星野:ご指摘の通りです。

前:「なめ猫」の特徴だけを画像生成AIに入力していったケースはいかがでしょうか。

星野:特徴だけの場合に「依拠性」が認められるかどうかは、ケースバイケースです。ただ、「なめ猫」の特徴をたくさん入力すればするほど、「なめ猫」を再現しようとしていることになるので、「依拠性」が認められやすくなると思います。また、たまたま「なめ猫」の特徴と一致してしまったということも難しいので、「なめ猫」を知らなかったという言い逃れはできない可能性がありますね。

町田:日本人であれば誰でも知っているようなキャラクターであれば、「依拠性」の立証は認められやすく、ごく一部の人しか知らないマイナーなキャラクターであれば、「依拠性」の立証は難しくなるということでしょうか。

星野:そうですね、有名かどうかという点は、立証においてポイントの一つとなると思います。

[1] https://nameneko.co.jp/ 
[2] https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/tyousakai/kensho_hyoka_kikaku/2017/johozai/houkokusho.pdf ←この資料のp36の図11、12を引用

(2)ウェブデザイン会社やX社に対する請求

松岡:次に、著作権を侵害されていると考えた会社による請求について、具体的に考えていきたいと思います。以下の具体例を用意しました。


追加具体例:第三者であるY社は「X社のHPに掲載されている猫のイラスト画像が自社の著作権を侵害している」と考えて、ウェブデザイン会社とX社に請求しようとしている。どのような請求が考えれるか?


町田先生、いかがでしょうか。

町田:Y社としては、差止めを求めることや損害賠償請求をすることを検討すると思います。

松岡:ありがとうございます。星野先生、このケースの場合、損害賠償請求において損害額はどのぐらい認められそうでしょうか。

星野:一般的に著作権侵害の損害賠償はわずかですので、なかなか大きな金額を裁判所に認めてもらうというのは難しいと思います。
この事例では、基本的には、差止めを中心に検討することとなるように思います。事例を変えて、X社が猫のイラスト画像を製品に貼りつけるなど商用利用している場合には、損害賠償請求をすることを検討すると思います。

(3)Y社の請求から防御するための手段

松岡:次に、Y社の請求から防御するための手段について検討していきたいと思います。すぐに思いつくのは、猫の画像を商標登録することですが、いかがでしょうか。

星野:例えば、くまもんは商標登録されていますので(商標登録第5387805号など)、商標登録すること自体はできると思います。

町田: 商標については、人間が創作したかどうかは問われませんので、創作的寄与が認められないようなAI生成物でも、商標登録される可能性があります。ただし、商標法29条第1項の規定により、商標登録出願よりも前に発生した他人の著作権と抵触する場合は、抵触の限度で登録商標の使用が制限されますので、その点は注意が必要です。

松岡:ありがとうございます。それでは、X社としては、デザイン会社との契約において工夫をするというのはいかがでしょうか。

星野:X社がデザイン会社との契約において、著作権侵害をしないという表明保証条項を入れれば、Y社からX社が請求を受けたとしても、X社はデザイン会社に金銭請求し得ると思います。表明保証条項は主に事後的な金銭的解決として機能しますが、デザイン会社としても、「なめ猫」のように有名な画像を参照しないなど、著作権侵害をしないように注意をして業務を行うことを促す、事実上の効果はあると思います。

2023年4月

【過去の対談記事】
対談記事(1):ChatGPTのビジネスの利用について、工学博士と弁護士が対談
対談記事(2):ChatGPT・GPT4の利用とセキュリティなどの問題点について、工学博士と弁護士・弁理士が対談
対談記事(3):対談記事(3):ChatGPTのプラグイン、Midjourneyなどの画像生成AIによる生産性向上

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対談者ご紹介

ジャパンマネジメントシステムズ株式会社 代表取締役社長
AIB協会理事 前一樹(まえ かずき)

東京大学大学院工学系研究科博士課程終了・博士(工学)取得。ベルギー・ルーベンカトリック大学研究員、北陸先端科学技術大学院大学助手、ITベンチャー企業取締役、CTOなどを経て、現職。医療系研究会事務局長、元上場企業監査役なども務める。情報処理安全確保支援士(登録番号第002063号)、ITストラテジスト。




弁理士法人磯野国際特許商標事務所 代表社員 弁理士
AIB協会理事 町田 能章(まちだ よしゆき)

早稲田大学大学院理工学研究科建設工学専攻修了。総合建設会社勤務を経て、磯野国際特許商標事務所に入所。2014年4月事務所法人化に伴い代表社員(所長)に就任。AIB協会内外においてAI分野の知財に関するセミナー講師も務める。特定侵害訴訟代理業務付記登録。


  

渥美坂井法律事務所・外国法共同事業 パートナー 弁護士 
AIB協会理事 松岡史朗(まつおか ふみあき)

京都大学法学部卒業。
上記の役職の他、一般社団法人日本DPO協会顧問、ステート・ストリート信託銀行株式会社社外取締役(監査等委員)も務める。
https://www.aplawjapan.com/professionals/fumiaki-matsuoka



  

渥美坂井法律事務所・外国法共同事業 弁護士
星野 真太郎(ほしの しんたろう)

一橋大学法科大学院修了。法律特許事務所勤務後、特許庁模倣品対策室の法制専門官を務め、多数の企業、団体へ知財案件、知財侵害対策に関する助言を提供。
https://www.aplawjapan.com/professionals/shintaro-hoshino


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