対談記事(8):ユニアデックス株式会社(BIPROGYグループ。Microsoftの認定パートナー)から、ChatGPTなどの生成AIに関するビジネスの現状と今後のビジネスの展開をお伺いしました(2/2)


対談の概要:多くの会社がChatGPTなどの生成AIの導入を検討しており、他社の動向やIT企業のサービスの内容が気になるところと思います。そこで、多くの会社に対してソリューションを提供している、ユニアデックス株式会社から、ChatGPTなどの生成AIに関するビジネスの現状と今後のビジネスの展開をお伺いしました。Windows95やクラウドコンピューティング以来の需要の高さとのことであり、読者の関心事である他社の動向やサービスの内容をお伝えいたします。

ユニアデックス株式会社(野津原・藤田)、工学博士(前)、弁護士(松岡)が対談

前記事の続きから

5 専用のGPT

松岡:先日の対談の際に、特定の企業専用のGPTと呼べるサービスについて議論していましたが、このようなサービスは可能でしょうか。

野津原:いくつかの方法があると思いますが、GPTに特定の企業のデータをベースとして回答させること(Enterprise Searchが可能な環境を提供すること)はできます。

前:先日の対談の際に、一般論を説明しましたが、本日ご説明していただいているのが実際の事例ということですね。

松岡:専用のGPTについて、他の事例はありますか?

野津原:既に公表されている金融機関の企業独自GPTはその代表例になります。また、当社のお客様の場合は、製造ラインの動作データをリアルタイムに学習し、故障が発生した場合に、会話式に原因特定を行っていくことを希望されるお客様も何社かありますね。お客様の立場からすれば、製造ラインが止まった際に、「どこが故障したのか?」と質問すると、故障した箇所と修理方法を回答してくれるというのは、非常に便利だと思います。

松岡:そのようなものが本当に可能であれば便利でしょうが、製造ラインの場合は、不正確な回答が許されない場合が多いのではないでしょうか。

野津原:そうなんですよね。そのため、実用に耐えうる形にできるかは今後の課題です。

前:間違った回答をしないように、故障が生じたかどうかについては、従来の機械学習を使用して、一定の閾値を設定しておき、回答をするためのユーザーインターフェースはGPTを利用するというのは考えられるのではないでしょうか。また、修理方法については、マニュアルを参照するようにするとか、作りこんでいく必要があるのではないかと思います。

野津原:はい、お客様または当社のような会社による作りこみが必要となります。

6 GPTによる製品の開発・改善

(1)LLMをつなぐ製品

松岡:貴社のGPTに関連するビジネスの今後の戦略を教えてください。

野津原:Microsoft製品については、上述した通りです。
 当社では、各種のLLMをセキュアな状態でつないだり、クラウドアプリケーションなどをiPaaS(アイパース。SaaSをつなぐことができるサービス)を基盤としてつないでSaaSをまたいでLLMがシームレスに動作できるようなサービスも検討しています。

前:RPA(Robotic Process Automation。定型作業の自動化ツール)のクラウド基盤みたいなものですか?

野津原:おっしゃる通り、RPAの技術を使っています。

(2)GPTがこれまでのAIサービスに与える影響

松岡:貴社の既存のAIサービスは、生成AIによってどのように変わりますか?

野津原:既存の自然言語系AIサービス(AiCB)は、企業の業務効率化のために提供しており、GPTのようなLLMを既にオプションとして組み込んでいます。これをGPT-3.5や4などの最新バージョンを組み込んで、大幅な機能アップさせることを計画しています。

前:その点について、質問させてください。GPTのAPIを使っているとすると、OpenAIに情報が提供されているのですか?それとも、GPTをこちらのサーバーに持ってきて、クローズの状態にしているのでしょうか?

野津原:OpenAIに対しては、データを学習に利用させないという申請ができます。この申請がきちんと機能する限りは、OpenAIに直接つないでも問題ないと思いますが、難しければ、Microsoftのサービスを利用することとなると思います。

松岡:分かりました。先ほどの予測AI(AiMYS)については、いかがでしょうか?

野津原:こちらも機能拡張していくこととなります。
 例えば、予測AIは、将来の売上を予測することができますが、もちろん、過去の売上などのデータを入力することが必要です。このデータの入力のためには、成形された一枚のデータシートである必要があります。しかし、多くの企業の場合、一枚のデータシートになっておらず項目もバラバラで、手作業で一枚のデータシートにする必要があります。GPTを利用することができれば、一枚のデータシートにすることを手作業でやる必要がなくなり、お客様はとても便利になると思います。

松岡:分かりました。画像AI(AiGZ)はいかがでしょうか。

野津原:画像AIについては、例えば、現在は、教師データとしてサンプルデータのアノテーションが必要になり、人手でチェックを入れる必要がありますが、生成AIでしたら、チェック入れ作業を詳しく指示するとさっとやってくれます。今までであれば、データサイエンティストが手作業でチェックを入れていたのですが、今後は、生成AIがやってくれるようになる部分が大きいと思います。

松岡:すみません。アノテーションについて分かりやすく教えてください。

野津原:アノテーションとは、AIに学習させたいデータに意味付け(タグ付け)を行う作業のことを指します。

前:AIに入力するためのデータを準備するのは、本当に大変ですよね。今までの手作業のデータ処理をGPTで自動化させることは実現可能ですし、実務的に影響が大きいと思います。

野津原:はい。このAIのためのデータ前処理をETL(Extract Transform Load)といいますが、ETLの対価は、何百万円~何千万円となります。GPTを利用すれば、安く、すぐにできることになります。

前:データサイエンティストの方の作業を効率化できるわけですね。

藤田:全体の作業の内、8割は、データ入力のための前処理と言われていますからね。

前:これまでは、データの過不足があったり、全角・半角とか合わせないといけないけど細かな部分を気にする必要がありましたが、GPTであれば、雑なデータを入力すればよいかもしれません。

藤田:データレイクに生データを入れておくと、判断してくれるということになりますよね。

野津原:GPTは、IT業界に対しては、非常に影響が大きいです。

(3)GPTがITサービスに与える影響

松岡:貴社のAI以外のインフラなどのITサービスは、GPTなどの生成AIの影響を受けますか?

野津原:当社が取り扱っている従来型のITサービスにも生成AIをAPIで連携させることにより、機能の向上を図ることを検討しています。当社で実際に検討を進めていることではありませんが、例えば、インフラの上に、コンテナなどお客様向けの特別な環境を作ることがあり、現在のところ手作業で行っています。この設定をGPTにさせることができます。Windowsの設定作業手順もGPTに覚えさせてやらせてしまえば、人間は実行ボタンを押すだけでよくなります。

前:運用の保守のところの問い合わせ対応もコールセンターと同じように効率化できるかもしれませんね。

野津原:そうですね。今まで人が行ってきたことを自動化させることができていくということになると思います。

7 主な検討課題と対応 

(1)回答の不正確性

松岡:それでは、今後のビジネスを展開する上での課題とその課題に対する対応方針を教えてください。

野津原:回答が不正確であることが問題と考えています。この課題については、プロンプトエンジニアリングで対応していきます。

松岡:回答の正確性が求められる場面もあると思いますが、回答の不正確性があっても効率性・生産性向上につながる場面も多いのではないかと考えています。仮にGPTが80点の書面をドラフトしてくれるとしたら、それを利用する企業は多いのではないでしょうか。逆に、そのような特徴のある製品を使いこなせない企業の競争力は相対的に低下する危険があります。

野津原:ご指摘の通り、私は昨年12月頃、ChatGPTは回答の不正確性があるので、それほど人気が出ないのではないかと懸念していましたが、1月以降は利便性の方が上回るということで、現在のように大人気となっています。

(2)アメリカの非常に速いリリースへの対応

松岡:私などからしても、OpenAIなどのアメリカの会社の製品リリースの頻度は、非常に高いと思いますが、貴社としても対応が大変なのではないでしょうか。

野津原:はい、とても大変です。当社としては、そのような製品の内容及びリリースの頻度を勘案して、お客様が本当に利用できるようなサービス(統合的サービス)を提供することを心がけています。

藤田:アメリカの会社のスピードに合わせて、サービスを提供することは大変ではありますが、この大変な状況は当社にとってビジネスの好機でもあると考えています。

(3)セキュリティへの対応

松岡:現在、セキュリティの問題はクローズアップされていますが、こちらへの対応はいかがでしょうか。

野津原:先ほど申し上げた通り、日本では基本的にはMicrosoftのユーザーが多いことから、当面新たな技術革新が起きない限りはセキュリティ対策を行っているAzureを利用するのがひとつの解決策になると思います。どのようなシステムであっても、完全無欠なセキュリティということはありませんので、問題の部分はあるかもしれませんが、リスクを抑えつつ、今後も継続的に改善していくこととなると思います。

2023年4月


【過去の対談記事】
対談記事(1):ChatGPTのビジネスの利用について、工学博士と弁護士が対談
対談記事(2):ChatGPT・GPT4の利用とセキュリティなどの問題点について、工学博士と弁護士・弁理士が対談
対談記事(3):対談記事(3):ChatGPTのプラグイン、Midjourneyなどの画像生成AIによる生産性向上
対談記事(4):Midjourneyなどの画像生成AIによる著作権の問題
対談記事(5):イタリアにおけるChatGPTの一時的な利用禁止と各国データ保護機関の動向
対談記事(6):AIと特許・AIによる特許に関する業務の効率化
対談記事(7):ユニアデックス株式会社(BIPROGYグループ。Microsoftの認定パートナー)から、ChatGPTなどの生成AIに関するビジネスの現状と今後のビジネスの展開をお伺いしました(1/2)

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対談者ご紹介

 

ユニアデックス株式会社 マーケティング本部 ビジネス企画開発部 担当部長
野津原壮夫(のづはらたけお)

大手商社にて二十数年勤務後にスタートアップを起業。2018 年よりユニアデックスに入社し、DX やAI を活用したデータ関連ビジネスの企画・推進に従事している。


 

ユニアデックス株式会社 技術戦略本部 デジタルイノベーション部 担当部長
藤田勝貫(ふじたまさつぐ)

IT 企業にてシステムエンジニア、IT ベンチャー起業を経て、2005 年より現職。DX や AI を活用したデータ関連ビジネスの推進に従事している。


ジャパンマネジメントシステムズ株式会社 代表取締役社長
AIB協会理事 前一樹(まえ かずき)

東京大学大学院工学系研究科博士課程終了・博士(工学)取得。ベルギー・ルーベンカトリック大学研究員、北陸先端科学技術大学院大学助手、ITベンチャー企業取締役、CTOなどを経て、現職。医療系研究会事務局長、元上場企業監査役なども務める。情報処理安全確保支援士(登録番号第002063号)、ITストラテジスト。


  

渥美坂井法律事務所・外国法共同事業 パートナー 弁護士 
AIB協会理事 松岡史朗(まつおか ふみあき)

京都大学法学部卒業。
上記の役職の他、一般社団法人日本DPO協会顧問、ステート・ストリート信託銀行株式会社社外取締役(監査等委員)も務める。


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