対談記事(11):Web版ChatGPTのブラウジング・プラグインの機能とiphoneアプリのChatGPT
工学博士(前)、弁理士(町田)、弁護士(松岡・権藤)が対談
対談の概要:Web版ChatGPTのブラウジング・プラグインの機能とiphoneアプリのChatGPTについて対談しました。
1.Web版のChatGPTとiphoneのアプリのChatGPTについて
(1)Web版のChatGPT
松岡:ChatGPTに関して新しいサービスが続々リリースされていますので、今回の対談は、その新しいサービスを対象としたいと思います。ChatGPTの「ウェブ版→iphoneアプリ版」という順番とします。
まず、ウェブ版のChatGPTにつきましては、従前、GPT3.5とGPT4を選択することができていました。最近、GPT4を選択すると、「Default」となっている通常のGPT4の他に、「Browse with Bing」(「ブラウジング」)のベータ版または「Plugins」(「プラグイン」)のベータ版を選択することが可能となりました。
ア ブラウジング
松岡:まず、「Browse with Bing」についてご説明をお願いします。
前:これはインターネットの情報を参照して回答できるようにしたものです。ChatGPTは、2021年9月時点までの学習データに基づき回答を作成していますので、最近の情報に関しては適切な回答ができない点が弱点と言われていましたが、それを補うものです。ブラウジングにチェックを入れて、プロンプトを入力すると、オンライン上の根拠を引用する形式で、ChatGPTが回答してくれます。
松岡:ありがとうございます。ブラウジングの使用例については、オンライン上で、既に多くの使用方法が公表されています。例えば、ブラウジングの機能を利用すれば、英語のウェブサイトを要約することが可能です。個人的には、これは、利用価値が高い場面が多いのではないかと考えています。例えば、海外政府の英語ウェブサイトで長い文章を読む必要がある場合、ブラウジングを利用して、先に要約を読んでおけば、長い文章を効率的に理解することができます。
前:その利用方法であれば、ウェブサイト上の情報ですし、自分で要約を読むだけですから、個人情報や秘密情報のセキュリティの観点からも何ら問題ないように思いますね。各国政府の資料を翻訳してくれて、要約してくれるのは、非常に使い勝手がよいと思います。言語をまたぐときには非常に便利だと思います。
権藤:私は、以前、少しだけChatGPT plusを申し込んで、GPT4を利用していたのですが、そのときは、ブラウジングもプラグインもまだ利用できませんでした。GPT4の方がスピードや内容で少し優れているというのは分かりましたが、それほど魅力的な有料プランではないなと思って解約しました。ただ、ブラウジングが利用できるのであれば、魅力的に思いますので、もう一度ChatGPT plusを申し込もうかなと思います。
イ プラグイン
松岡:次は、プラグインについて説明をお願い致します。
前:プラグインとは、他のアプリの出力を参照してChatGPTが回答するようにするものです。「Browse with Bing」はBingのプラグインを通してインターネットの情報を参照するようになっています。有料のChat GPT plus で利用でできます。ChatGPTのプロンプト画面でGPT-4を選択すると表示されるプラグインストアで、利用したいプラグインをインストールできます。1つの対話スレッドで使用できるプラグインは3つまで選択することができます。プラグインを選択して、プロンプトを入力すると、ChatGPTがプロンプト内容からプラグインの利用を判断して回答が生成されます。ChatGPT単体では期待通りの回答が難しい内容でも、他社のサービスのプラグインを参照することで、ユーザにとって利用できる場面が広がります。
松岡:ありがとうございます。例えば、「AskYourPDF」というプラグインを利用すれば、PDFを読み取ることができます。現在のChatGPTでは、Browse機能を利用しても、ウェブ上のPDFファイルを読み取ることはできませんが、「AskYourPDF」というプラグインを利用すれば、PDFファイルを読み取ることができます。つまり、「AskYourPDF」というプラグインを利用すれば、長いPDFファイルの要約を作成させることができます。PDFのウェブサイトのURLを貼り付けて、「上記のウェブサイトを要約してください」とプロンプトを入力すれば、「Using AskYourPDF」と表示されて、PDFの内容の要約文が表示されます。
前:とても便利ですね。現在、プラグインの種類は非常に増えています。PDFの他にも旅行に利用できるプラグインもありますよね。
松岡:はい。予算・地域・日程をプロンプトで入力すれば、候補旅程を生成してくれるというプラグインがありますね。まだ、いろいろ使い込んだわけではありませんが、自分でいろんなサイト行って作業しなくても、ChatGPTがいろいろやってくれそうですね。
前:当初Googleが「赤信号(Code Red)だ」と言って警戒感を示したのは、まさにそういうことだと思います。これまで仕事を始める際は、まずブラウザを立ち上げて、ブラウザをハブにしていろんなサイトに行って作業をするということが多かったかと思います。例えば旅行の予約をする場合、まずGoogleなどブラウザを立ち上げて、旅行サイトを検索をした上で、旅行サイトに行って自分で予約をします。これに対して、ChatGPTを利用する場合、ChatGPTのインターフェース上で、旅行のイメージを伝えると、旅行プランを勧めてくれて、旅行会社の窓口担当者と対話するような感じで旅行の予約までしてくれることとなります。各社がChatGPT用のプラグインを用意し、ChatGPTが本格的に普及すると、Googleを立ち上げる代わりに、まずChatGPTを立ち上げて、ChatGPTをハブに仕事をするようになる可能性があります。こうなってくると、企業の側は、広告を出すのは、Googleではなく、ChatGPTの方がいいよね、ということになり、今までのGoogleの地位が一気に変わる可能性があります。このストーリーをGoogleは恐れているのだと思います。ChatGPTのハブ化の有力な手段の一つがプラグインです。
ウ プラグインのセキュリティ
松岡:ありがとうございます。プラグインにつきましては、セキュリティについて懸念も示されています。この点につきましてもご説明をお願い致します。
前:一般に、ネット上でつながるということは、利便性が上がる一方、セキュリティのリスクも増えることとなります。プラグインを提供しているのはOpenAIではなく、第三者の企業であるため、その信用性は自ら確認するようにOpenAIも注意書きを出しています。悪意のある者が公開したプラグインを使用してしまうと、プロンプトに入れた内容がそのまま窃取されるだけでなく、出力されたURLは、「マルウエアがダウンロードされるような不正なサーバのもの」かもしれません。今までも、クラウドのサービスを利用する場合、そのクラウドサービスが安全なものか、つまり信用できる企業が運営しているものか、情報漏洩の危険性はないかなど確認した上で利用していたと思います。これまでのクラウドサービスはそれぞれ独立したものが多く、それぞれ安全性を確認すればよいと言えますが、ChatGPTのプラグインとしてあらゆるサービスが自動的に接続されていると、その中に不正なものが紛れ込んだ場合、セキュリティのリスクは今より大きなものになる恐れがあります。
松岡:分かりました。私がインストールしたAskYourPDFについても少なくともポリシー・規約を読まないといけないこととなりますね。
町田:プラグインを利用するのであれば、手間ではあっても、プラグイン先の安全性を確認する必要がありますね。安全性を確認しなければ、「悪意のものが入っていました」ということがあり得るということですよね?
前:はい。あり得ますね。
町田:Google Chromeにもプラグインはあると思いますが、Google Chromeについても状況は同じでしょうか?
前:同じ状況ですね。Google Chromeにつながるプラグインもいろいろありますが、ChromeからChatGPTを呼ぶプラグインもあったと思います。ブラウザのプラグインが不正なものである可能性はあり、注意が必要です。プラグインはブラウザの機能を拡張するように一体となって動作するので、PC上でどんなプログラムが稼働しているか確認するツールを利用してみても、Chromeが動作しているとしか見えませんが、プラグインがキーボード入力を取得してパスワードを窃取するなどの不正な動作する可能性があります。プラグインを入れるときは、適切な企業のプラグインを入れる必要があります。スマートフォンのアプリも同じです。色々なアプリがあり、例えば、表はゲームに見えて、裏で情報を抜いているなど不正な動作をするものがあります。iphoneの場合は、アップルがアプリを審査してアップルストアに置くためには承認が必要です。アンドロイド系は、アップルよりは厳しくありませんので、ストアに危険なものがある可能性もあり得ることとなります。
町田:私らの事務所においても、プログラムを勝手にインストールしないようにというルールは設けています。
前:プラグインについても、同様の対応が必要となると思います。最初は限られた企業にChatGPTのプラグインの作成を認めていたと思いますので、ある程度信頼できると考えても良いかもしれませんが、プラグインの注意書きでは、「OpenAI以外の第三者が提供しているので、注意してください」とあり、何かあってもOpenAIは責任を取らないということと思いますので、自分でちゃんと確かめて利用するということが必要と思います。
町田:iPhoneのように厳しく審査をしてくれるのであれば、いいのかなと思いますが。ChatGPTのプラグインがより一般化するとリスクが高くなってきますね。
前:そうですね。例えば、PDFを読む機能だけでも、将来はいろいろな企業が提供することとなり、どのプラグインが良いかユーザから評価を受けることとなるのだと思います。
町田:そうですね。いずれにせよ注意が必要ですね。
前:会社の内部ルールとして、安全かつ有用なプラグインを決めて利用するということが必要かもしれませんね。PCにアプリを勝手にインストールしないというのと同様です。
(2)iphoneアプリのChatGPTについて
松岡:iphoneのChatGPTのアプリが日本でも使用可能となりました。音声認識のために「Whisper」が標準的に実装されており、音声でプロンプトを入力することが可能です。先日の対談でWhisperについて教えていただきましたので、どれぐらいの音声認識レベルにあるのか、試しに音声入力をしてみましたが、文章の途中で「えー」と言っても、その部分は省略してくれています。また、言い直しをしてもきれいな文章としてプロンプトとして認識してくれます。音声を単純な時系列的に文字変換するのではなく、適切な文章として整理してくれますので、非常に便利ですね。
前:「えー」とか「あー」を省略して、適切な文章として整理する点はすごいですね。単なる音声認識ではなく、そういうものは省くという一定の要約機能も入れているのだと思います。
松岡:使用例としては、子どもの質問(例:「雨はなんで降るの?」とか、「空はなぜ青いの?」)への対応に利用できるのではないかと考えています。アグネス・チャン氏によれば、子どもの質問に回答することは非常に重要とのことであり、彼女は、入浴時であっても、すぐに出て調べたり、料理を作っていても、中断して回答を調べていたそうです[1]。ChatGPTアプリの音声認識機能を利用すれば、負担を軽減して、子どもの質問に回答することができるのではないかと期待しています。
前:ただ、ChatGPTにばかり頼っていると、ChatGPTの回答を正確なものとして鵜呑みにする子どもが育つという問題も出てくるのではないでしょうか(笑)
松岡:そうですね。ChatGPTの回答を正確と考える子どもに育てるのは本意ではありませんので、そうならないように対策は検討する必要があります。
ただ、私は、雨が降る原因である水蒸気が上空で冷やされて、液体化して雨になることや、地表や水面の水が蒸発することの説明をするためには少し時間がかかりますので、子どもの質問対応につきましても効率化しようと考えています。
2.Windows Copilotについて
松岡:5月23日にマイクロソフトは、「Build」という開発者会議で、Windows Copilotについて、新しくリリースをしました。Windows Copilotのプレビュー版は6月から提供予定とのことですので、一般的に利用可能となる日は近いですね。Windows Copilotにつきましては、公表事項につして、適時対談記事にしていこうと思います。
2023年6月
[1] https://globe.asahi.com/article/14419662 この記事の10番目の項目
【過去の対談記事】
対談記事(1):ChatGPTのビジネスの利用について、工学博士と弁護士が対談
対談記事(2):ChatGPT・GPT4の利用とセキュリティなどの問題点について、工学博士と弁護士・弁理士が対談
対談記事(3):対談記事(3):ChatGPTのプラグイン、Midjourneyなどの画像生成AIによる生産性向上
対談記事(4):Midjourneyなどの画像生成AIによる著作権の問題
対談記事(5):イタリアにおけるChatGPTの一時的な利用禁止と各国データ保護機関の動向
対談記事(6):AIと特許・AIによる特許に関する業務の効率化
対談記事(7):ユニアデックス株式会社(BIPROGYグループ。Microsoftの認定パートナー)から、ChatGPTなどの生成AIに関するビジネスの現状と今後のビジネスの展開をお伺いしました(1/2)
対談記事(8):ユニアデックス株式会社(BIPROGYグループ。Microsoftの認定パートナー)から、ChatGPTなどの生成AIに関するビジネスの現状と今後のビジネスの展開をお伺いしました(2/2)
対談記事(9):ChatGPTなどのAIの社内利用による生産性向上(労働時間の減少・人手不足の解消)とリスク対応
対談記事(10):ディープラーニング協会(JDLA)が公表したガイドラインの著作権に関連する項目について検討
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対談者ご紹介
ジャパンマネジメントシステムズ株式会社 代表取締役社長
AIB協会理事 前一樹(まえ かずき)
東京大学大学院工学系研究科博士課程終了・博士(工学)取得。ベルギー・ルーベンカトリック大学研究員、北陸先端科学技術大学院大学助手、ITベンチャー企業取締役、CTOなどを経て、現職。医療系研究会事務局長、元上場企業監査役なども務める。情報処理安全確保支援士(登録番号第002063号)、ITストラテジスト。
弁理士法人磯野国際特許商標事務所 代表社員 弁理士
AIB協会理事 町田 能章(まちだ よしゆき)
早稲田大学大学院理工学研究科建設工学専攻修了。総合建設会社勤務を経て、磯野国際特許商標事務所に入所。2014年4月事務所法人化に伴い代表社員(所長)に就任。AIB協会内外においてAI分野の知財に関するセミナー講師も務める。特定侵害訴訟代理業務付記登録。
渥美坂井法律事務所・外国法共同事業 パートナー 弁護士
AIB協会理事 松岡史朗(まつおか ふみあき)
京都大学法学部卒業。
上記の役職の他、一般社団法人日本DPO協会顧問、ステート・ストリート信託銀行株式会社社外取締役(監査等委員)も務める。
https://www.aplawjapan.com/professionals/fumiaki-matsuoka
渥美坂井法律事務所・外国法共同事業 弁護士
権藤 孝典(ごんどう たかのり)
一橋大学法科大学院修了。個人情報保護に関するアドバイスやデータ流出等に関する紛争処理を行ってきた他、日本DPO協会認定データ保護実務者(民間部門)認定トレーナーとしても活動。
https://www.aplawjapan.com/professionals/takanori-gondo
〒150-0031
東京都渋谷区桜丘町18-6 日本会館4階
一般社団法人 人工知能ビジネス創出協会